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『君の名は。』~新海誠三作品における考察と感想~

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こんにちは、ぺんぎんです。

実は私、今日が誕生日なのです。誰か祝福して下さい(笑)

 

 

 さて、今さらですが、映画『君の名は。』を鑑賞しました。当初は青春ラブストーリーものという情報を得ていたので、「独身アラサーの自分なんかが観たらその場で蒸発しかねない!」と思って敬遠していたのですが、ふと気の迷いから先日、映画を観に行きました。感想はというと、

「どうした新海誠!面白いじゃないか!!」という感じでした(笑)

 新海作品と言えば、『秒速5センチメートル』を以前に鑑賞しており、あの何とも言えない切ない感じの終わり方がたまりませんでした。なので、今回もそんな感じになるのではないかと予想していました。しかし、実際は全然違いました。『君の名は。』は、これまでの新海作品の集大成であると感じました。

 以下に、『君の名は。』がこれまでの新海作品の集大成である理由や作品の共通点などを6つの視点で紹介していきます。特に、角川から小説版が出ている三作品(『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』、『君の名は。』)を対比させてみました。

 ちなみに、作品が製作された時系列は、『秒速5センチメートル』(2007)→『言の葉の庭』(2013)→『君の名は。』(2016)となっています。

 

 

■6つの視点

①登場人物

君の名は。』では、高校生の立花瀧(声:神木隆之介)と同じく高校生の宮水三葉(声:上白石萌音)という二人が主人公です。高校生や学生が主人公というのは、新海作品では共通しており、『秒速5センチメートル』の主人公遠野貴樹や、『言の葉の庭』の主人公秋月孝雄(ヒロインの雪野百香は教師)にも当てはまっています。

 『君の名は。』のトリビアとして、瀧がアルバイトをしているイタリアンレストラン「IL GIARDINO DELLE PAROLE」は、『言の葉の庭』の伊語版タイトルです。また、三葉の友人である勅使河原克彦名取早耶香は、小説版『言の葉の庭』からの登場人物であり、そもそも三葉の高校の古典教師であるユキちゃん先生は、『言の葉の庭』のヒロインである雪野百香里と同一人物です。その他にもスピンオフ小説では、三葉の祖母である一葉の母の名前は「言葉」となっており、これまた前作を意識した演出となっています。

 ちなみに、これまでの男性主人公の名前は、「貴樹(Takaki)」「孝雄(Takao)」「瀧(Taki)」と全員がTで始まっています。

 

②舞台

君の名は。』では、瀧の出身地である東京都と三葉の出身地である岐阜県の架空の町「糸守町」が舞台になっています。『秒速5センチメートル』では、「桜花抄」東京都→「コスモナウト」鹿児島県種子島)→秒速5センチメートル東京都が舞台であり、各編によって舞台が異なっています。『言の葉の庭』では、終始東京都が舞台になっています。このように東京都が主な舞台であることが共通しており、登場人物の再開や別れの場所などの意味を持っています。

 言の葉の庭』は、新海作品の中でも例外が多く、他の作品に付けられているサブタイトル(例:『秒速5センチメートルa chain of short stories about their distance、『君の名は。your name.)がなく、前述したように東京のみが舞台であり、後述する宇宙の描写がないなど、これまでの新海作品の常識を外した作品となっています。

 

③電車

 新海作品では電車が要所で描写されています。『君の名は。』では、隕石の衝突前日に三葉が東京の瀧に会いに行く場面や二人が社会人になってから電車で行き違う場面などに描写され、単純な移動手段としてだけではなく、すれ違いを表す舞台装置として描かれています。秒速5センチメートル』では、「桜花抄」にて主人公の貴樹がヒロインの明里に会いに行く場面や二人が踏切を挟んでいる場面など、二人の関係が上手くいかないことの暗示として描かれています。『言の葉の庭』では、主人公とヒロインの交通手段として描かれていますが、これは雑踏の駅と静かな雨の庭園との対比、日常と非日常の対比として描かれています。

 

④宇宙

 新海監督は宇宙やSFが好きでその描写は物語に多く取り込まれており、それが映像美に一役買っているのは言うまでもありません。『君の名は。』では、物語の根幹ともいうべきティアマト彗星の描写がそれに当たります。『秒速5センチメートル』では、「コスモナウト」での貴樹の心理描写がそれにあたります。また、「コスモナウト」とは宇宙飛行士の意味です。『言の葉の庭』では、なんと宇宙に関する描写がありません。しかし、宇宙の下にある天気(雨)が第3のキャラクターとして描かれています。

 

⑤就職

 少年少女から青年への成長を描いた新海作品では、直接働いている描写は少ないですが主人公が就職するという場面があります。『君の名は。』では、瀧が建築会社の面接を受ける場面やその後、実際に就職したと思われる場面が描かれています。『秒速5センチメートル』では、貴樹が就職した会社を退職したという場面があります。『言の葉の庭』では、主人公である孝雄は就職しませんが、将来靴職人になることを目指しています。また、ヒロインである雪野はとある理由から物語中盤で仕事を退職します。

 

⑥物語の結末

 『君の名は。』では、最終的に瀧と三葉の行動によって隕石による大災害を防ぐことには成功しましたが、入れ替わっていたそれまでの記憶をお互いに失ってしまいます(無かったことになった?)。ですが、心の中には、お互いに「何か」を探し続けているという感覚が残っており、ついには物語のラストシーンで再開(初対面)を果たします。ここが今までの新海作品と大きく異なる点です。秒速5センチメートル』では、主人公である貴樹は誰とも結ばれずに物語は終わります。また、『言の葉の庭』では、主人公である孝雄とヒロインである雪野は心を通わせたものの、最終的には別々の道を歩むことを選んでいます。これまで多くのすれ違いや別れを描いてきた新海監督が「再開」を描くということがまず驚きであり、それによって大きな感動が生まれました。

 ただ、高校生の内に再開するのではなく、高校生→大学生→社会人と時間をかけて再開するという流れが何とも新海作品らしいなとも思いました。これにより、時間の経過を経てもずっと探し続けていたという感じがより強く表れています。

 

 その他、『君の名は。』では、RADWIMPSが劇中の音楽全てを担当しています。新海作品ではこれまでにも多くのアーティストが主題歌を担当してきました(『秒速5センチメートル山崎まさよしOne more time, One more chance、『言の葉の庭秦基博「Rain」)。その中でも劇中の音楽全てをアーティストが担当しているというのは初の試みです。このアーティストが自分に合うかどうかで作品の評価が大きく分かれるポイントでもあると思います。私としてはRADWIMPSが好きなこともあって、音楽の緩急が作品を上手く上げたり下げたりして重すぎず軽すぎず効果的に機能していた気がしました。

 

 

 いかがでしたでしょうか。要は「これまでの新海作品を観ているとより楽しめるよ」という紹介なのです(笑)『君の名は。』は、ロングラン上映されていますので、時間があれば上記の二作品(『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』)を観た上で鑑賞することをオススメします。製作者の意匠を感じ、より物語に入り込んで感動することができると思いますので是非、参考までに。

 

 

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ぺんぎん