夜明け前が最も暗い

何かを失った自分が、新しい自分を手に入れるまで。

ウツボカズラの悲しみ

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ある大きな森に1本のウツボカズラが生えていた。

ウツボカズラは孤独だった。

いつも森の隙間から空ばかり眺めていた。

 

ある日のこと、ウツボカズラの葉に1匹の虫が止まった。

虫はずっと飛び続けていたので、休む場所を探していた。

ウツボカズラは虫に自分の葉に止まって休むように勧めた。

それならお礼にと虫は森から動けないウツボカズラに森の外の話を聞かせた。

ウツボカズラも虫の話を熱心に聞き入った。

その日以来、ウツボカズラと虫は友達になった。

いつしかウツボカズラと虫は来る日も来る日も話をするようになった。

冷たい雨の日も、強い風の日も、暑い太陽の日も。

1本と1匹はいつも一緒だった。

 

そんなある日、いつものように話をしようと虫がウツボカズラの葉に止まった。

しかし、ふとした拍子に虫は葉から足を滑らせ、ウツボカズラの袋の中に落ちてしまった。

袋から出ようにも袋の中はつるつると滑っていて虫は登ることができなかった。

ウツボカズラはうろたえた。

ウツボカズラの袋の中には虫を溶かす消化液が入っていたからだ。

しかし、うろたえればうろたえるほど消化液がますます出て、袋の中にいる虫を溶かした。

ウツボカズラが消化液の涙を完全に出し尽くした頃、ついに虫は完全に溶けてしまった。

 

ウツボカズラは唯一の友達をなくした。

自分の出した消化液で唯一の友達を溶かした。

ウツボカズラはまた孤独になった。

ウツボカズラはもう虫から森の外の話を聞くことはできない。

ウツボカズラの葉に虫が止まることはもうない。

 

その夜、ウツボカズラは白い花を咲かせた。

それは大きな森では決して目立たない、あの虫のように小さな花だった。